アスリートレポート

2016年4月21日

アスリート交差点:「楽しい」が原動力 未来を開いた一冊(高桑早生 毎日新聞掲載コラム第6回)

毎日新聞 2016年4月21日掲載

アスリート交差点:「楽しい」が原動力 未来を開いた一冊=パラリンピック陸上・高桑早生

 30日から鳥取市で日本パラ陸上選手権が行われます。出場を目指すリオデジャネイロ・パラリンピックに向け、6月まで選考レースが続きますが、今回も私とパラ陸上との出合いについて話をしたいと思います。影響を受けたのは、2020年東京五輪・パラリンピックの招致演説をした佐藤真海さんの著書「ラッキーガール」です。骨肉腫で左脚の切断手術を受け、入院していた中学1年生の時でした。
 当時の病棟には、私と同じ病気にかかった同年代の子どもたちが集まっていました。私より先に入院していた女の子の母親が持っていたのが、やはり骨肉腫にかかって膝下を切断した佐藤さんの本。私の母も含め、子どもの病気について親同士で相談していて、紹介されました。本には治療の詳細なども書いてあるので、母としては落ち着くまで私には読ませたくなかったみたいです。でも、切断の手術を終えて体を起こせるようになった時に母のかばんの中に本が入っているのを見つけてしまって......。母は最初ごまかしていたんですけど、私は読み進めてしまったのです。
 内容もさることながら、私が引かれたのは本の表紙。佐藤さんが跳んでいる写真が載っているものでした。膝下からが義足の女性を見たのは初めてで「私もこういうふうになるんだな」というイメージがわいてきたのを覚えています。佐藤さんの闘病生活のことも書いてあり、その点も心の準備につながりました。抗がん剤の影響で髪の毛が抜けた時も「やっぱり私にも来たんだ」と、それほど動揺はしませんでした。いろいろな意味であの時に読んでよかったと思っています。病室だから携帯電話もインターネットも使うことができない。本の中にあった佐藤さんの姿が私の最初の希望となり、その瞬間から未来が開けてきました。
 「義足ですが、一緒に練習してもいいですか」。高校の陸上部に入る際にそう尋ねた一言が私の始まりでした。周囲の受け止めは「練習しなよ」と自然なものでした。同級生とトレーニングすることによって陸上での目標も見えてきました。
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 ■人物略歴
 ◇たかくわ・さき
 埼玉県熊谷市出身。小学6年で骨肉腫を発症し、中学1年で左脚膝下を切断した。初出場した2012年ロンドン・パラリンピックで陸上100メートル、200メートルともに7位。エイベックス所属。23歳。

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